時間の流れを感じさせる小説

この直前の記事に書いたのだけど、
エレカシの ”月夜の散歩” をはじめとする曲を聴いていると、
時間というものが容赦なく過ぎていってしまうことについて、
想いを馳せずにはいられません。

時間は流れていき、もう戻らない、ということ自体は
うれしいことでも悲しいことでもなく、
現象というか、プラスもマイナスも帯びていない事実だと思うのだけど、
そこに感情が加わると、時に、切ないなぁ、とかしみじみ...とか、無常とか、
そんなことを感じさせられるように思います。

今日は、私が特に好きな小説の中で、
時間の流れを感じさせる作品の中から、二つを紹介させていただこうと思います。

スコット・フィッツジェラルド著『グレート・ギャツビー

グレート・ギャツビー (村上春樹翻訳ライブラリー)

グレート・ギャツビー (村上春樹翻訳ライブラリー)

グレート・ギャツビー (新潮文庫)

グレート・ギャツビー (新潮文庫)

 
 数年前、村上春樹氏が翻訳したことでも話題になった作品なので、
 読まれた方も多いかもしれません。
 私は、野崎孝さんの翻訳バージョンも好きです。
 すごく好きなシーンだけ、時々原書で読んでいます。
 
 お金持ちではあるけれど、後ろ暗いところもあるのでは、と噂されて
 いる青年ギャツビーのことが、
 その俗物ぶりと純粋さを含めて、元隣人ニックの視点で語られているお
 話です。
 ギャツビーは、かつての恋人デイジーとの幸せだった過去は再現できる
 と信じているのですが...。

川上弘美著『ニシノユキヒコの恋と冒険』

ニシノユキヒコの恋と冒険

ニシノユキヒコの恋と冒険

 甘い顔をしたさわやかなハンサムで、仕事もできて器用。
 いつも複数の女性とつき合っていて、時に子供のようでもあり、
 時に自分の影の部分を相手に見せてくる男、ニシノユキヒコの
 10代から50代までの姿が、彼とつき合っていた女性たちの視点で語
 られています。
 短編の連作の形をとった作品。

この作品を読んで思ったのは、
ニシノ君は、時間が過ぎていくことや、
自分や相手の気持ちを含めた全てのものごとが変化していくことに対してのおそれが強いあまりに、
他者と芯からコミュニケートできないのだろうということでした。
ニシノくんもギャツビーも、過ぎていく時間を受け入れがたいという所が共通していると感じます。
自然の法則に添うことのできない彼らが二人とも作品中で命を落としてしまう所など、まるで神話を読んでいるような気分になりました。
二作品とも、作者の深い人間観察の目や繊細な感性を感じさせられます。
読むひとによっても、また、読む度にも様々に感じたり解釈したりできる、素晴らしい作品です。